坪内隆彦「巻頭言 わが国独自の民主主義(シラス)を取り戻せ」(『維新と興亜』第10号)


『維新と興亜』第10号(令和3年12月28日発売)の坪内隆彦「巻頭言 わが国独自の民主主義(シラス)を取り戻せ」の一部を紹介します。

坪内隆彦「巻頭言 わが国独自の民主主義(シラス)を取り戻せ」(『維新と興亜』第10号)

 バイデン大統領が「対中包囲網」を意図して開催した民主主義サミットは、逆に中国を利する結果に終わった。サミットには百九カ国と台湾、EUが招待されたが、イラク、アンゴラ、コンゴなどフリーダム・ハウスが「自由ではない」と見なす国も招待された。京都大学教授の中西寛氏が「そもそも民主主義か権威主義(非民主主義)かを明確に区分する境界線はない」と指摘しているように、民主主義サミットにどの国を招待するかは恣意的にならざるを得ない。そのため、東アジア地域での招待国選定は大失敗に終わった。東アジア十四カ国の中で、招待されたのは日本、韓国、インドネシア、マレーシア、フィリピンのわずか五カ国で、残り九カ国は招待されなかった。こうした恣意的な招待国の選定は、中国や北朝鮮とともに招待されなかったシンガポール、タイ、ベトナムといったASEAN諸国の反発を生み出し、逆に彼らを中国側へと追いやる結果をもたらしかねない。
 我々は、中国政府による新疆ウイグル自治区や香港などでの人権侵害を到底容認することはできないが、人権問題で中国を包囲しようとした今回のサミットは、それに反発して中国側が展開した主張を裏付けるという逆の結果を招いたかに見える。
 中国はサミットにぶつけて、白書『中国の民主』を発表し、「ある国が民主的であるか否かは、その国の人々が判断すべきだ。外部の少数の者あるいは独善的な少数の国が判断すべきではなく、国際社会が判断すべきである。民主には各国各様にさまざまな形があり、一つの物差しで測るべきではない」と主張した。さらに中国は、『アメリカ民主の状況』で、米国の民主主義は「金権政治」であり、少数のエリートによる統治だと指摘し、アメリカにおける人種差別や貧富の格差の拡大を強調した。中国はこうした白書によってアメリカを牽制しているのだが、中国の主張自体には各国で支持する声がある。例えば、シンガポール国立大学アジア研究所名誉フェローのキショール・マブバニ氏は、「民主主義は、外から押しつけるのではなく、その国が世界の他の国々との関わりを深め、経済を発展させる中で国民自身が選択するのが理想だ」と説く。
 かつて欧米の植民地支配下で人権を踏みにじられてきた国には、人権外交を展開するアメリカに対して、「あなたたちに説教されたくない」という意識がある。

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