『維新と興亜』第7号
【特別対談】アジア主義の封印を解く! 下 「中国主導のアジア主義を超えて(クリストファー・スピルマン、小山俊樹)
【蔵書紹介】近藤啓吾『紹宇存稿』他(折本龍則)
〈中国主導のアジア主義を超えて
── 対米追従を続ける日本を、多くのアジア諸国が冷ややかな目で見ているのではないでしょうか。
小山 ベトナムなどからの技能実習生の問題はアジア人の失望を深めていると思います。右派や民族派こそが、こうした問題に声を上げるべきだと思います。
振り返れば、日本が日露戦争に勝利した後、ベトナムの民族独立運動の指導者ファン・ボイ・チャウは、日本への留学を呼びかけ、多くの青年が日本に渡りました。東遊(トンズー)運動です。日本のアジア主義者たちは、ベトナムからの留学生を庇護しようとしましたが、日仏協約を結んでいた日本政府によって留学生たちは国外退去を命じられました。日本政府は今、日本に期待するアジア人たちを再び失望させているのです。
── アジア諸民族の協力を中国が主導する時代になっています。
小山 中国が強くなれば、中国に阿るアジア主義思想が出てくるのは必然です。だからこそ、改めてアジア主義の理念を固め直す必要があると思います。人種平等の理念と同時に、独裁体制は受け入れられないという理念を示すことが必要です。理念なき迎合は事大主義でしかありません。経済的な利害だけで、アジア諸国との関係を考えることは間違いです。
スピルマン 明治政府のアジア外交も利害最優先であり、理念がありませんでした。こうした利害最優先の政府を批判したのが、アジア主義者だったはずです。
かつて、日本のエリート層が西洋列強とつながっていたように、エリート層は中国とつながりかねません。現在のままでは、日本の財界は中国へとシフトしていくでしょう。中国もそのような方向に誘導していこうとしています。
小山 アジア主義と言うのであれば、日本は「自由なアジア」が重要であるとの立場を明確にすべきです。
── 「自由なアジア」は重要だと思いますが、同時に欧米のリベラル・デモクラシーを絶対視するわけにはいかないという考え方もあります。
小山 いつの時代も、立場を超えて呼びかける言葉は、普遍的価値を帯びていなければなりません。実態としての欧米はともかく、彼らの唱える言葉には普遍性があります。だからこそ「自由なアジア」に欧米は正面から反対できません。
日本は「どのようなアジアを目指すのか」を明確にした上で、アジア外交を展開すべきです。アジア諸国が協力し、力をつけることは重要ですが、現在の中国のような力のつけ方ではいけないと主張すべきだと思います。
スピルマン かつて、日本政府がアジア主義的言説を用いながら覇権を求めたのと同じように、現在中国はアジア主義的言説を用いながら覇権を求めています。
小山 地域主義を考えるとき、構成するすべての国と地域にとって価値のある概念を共有することが必要です。そうでなければ、アジアの地域主義は中国に都合のいい空間をアジアに作るだけで終わるでしょう。日本は、自らの失敗の経験から、自由の価値を強く主張すべきです。
一時は世界的にパンダハガー(親中派)の勢いが強まりましたが、潮目は変わりつつあります。覇権を強めようとする中国の動きを抑える時です。ただし、中国国民は敵ではありません。中国との草の根の交流は維持していく必要があると思います。〉