良書紹介 11


 イギリスのEU離脱によって、グローバリズムが終焉を迎えるのではないかと言う甘い期待を述べたが、グローバリズムは意外に複雑だ。というのもグローバリズムは国際企業を中心とした市場秩序が国境や文化の壁を破壊していくというボーダレス・エコノミーの部分と、超大国(アメリカ)の国益に過ぎないものを「これがグローバルスタンダードです」とすべての国に押し付けていくという帝国主義の部分がないまぜになっているからだ。そのどちらもわが国にとって有害でしかないが、その事象を分析するときは両面を見なくてはならないだろう。今回のイギリスのEU離脱については、シティの金融市場の崩壊を見る一方、アメリカの国益の押し付けについては何も毀損されていない。少し自分も浮かれ過ぎていたかもしれないと思ったので記しておきたい。

 さて、久しぶりに良書紹介を行いたい。
井尻千男『歴史にとって美とは何か 宿命に殉じた者たち』
小川栄太郎『小林秀雄の後の二十一章』
中島岳志『下中弥三郎』

 井尻千男『歴史にとって美とは何か 宿命に殉じた者たち』は井尻の遺稿集である。特に「醍醐天皇とその時代」が素晴らしい。天皇親政―遣唐使廃止―古今和歌集編纂の三つの自称が織りなす当時の精神状況を鮮やかに描き出しており読む者に深い感動を与える。

 小川栄太郎『小林秀雄の後の二十一章』は力の入った書物であり読む者を引き込む力がある。著者が安倍総理礼賛であるため、なかなかその本を開くのが遅くなってしまったが、その著書は非常に素晴らしいものであった。

 中島岳志『下中弥三郎』は数々の思想遍歴のある下中の思想を、本人の発言、行動を丹念におさえることで描き出している。下中の人生を貫くユートピアへの思いを描いたことは大いに興味深いものとなっている。

 良書に触れることは脳のごちそうであり、食事が欠かせないのと同様に脳には読書が欠かせない。その中でも素晴らしい本に出合うことで自らの思想がより研鑽されれば良いと考えている。

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