天皇論五部作第三段は『明治天皇論』である。明治天皇論は天皇論五部作の中でも最も厚く1300頁以上ある書物である。
明治天皇論が対象とするのは主に幕末から明治維新にかけてだが、断片的に戦中戦後の話題も盛り込まれている。
この天皇論五部作は明治百年を期として書かれたものである。
明治天皇論は薩長藩閥ではなく孝明天皇や(橘の出身地)水戸藩を讃え、幕府と天皇に二元化した権力を一元化させたと捉える点で珍しい。皇権回復を是とはしているが、意外にも幕府寄りな評価のことが多い。
特に徳川家茂、徳川慶喜に対して孝明天皇の朝権回復の志の実現に尽力し未曽有の大時代を画したと随分評価が高いことは驚きである。
逆に薩長は驚くほど僅かしか触れられない。
水戸学については触れられているが、崎門学や国学などにはほとんど触れていない。
維新前後財政面を構想した由利公正(三岡八郎)に対しても「大アジア開発の大先駆者」であると述べている。
幕末からの経緯を長々とたどっているが、やや微細になりすぎているようにも感じる。
「マツクアーサー気ちがい憲法」と、当然ながら日本国憲法には辛辣な評価。
数少ない現代の問題の叙述では、「いま日本が抱える問題」を「大東京過密化」と「農村過疎化」と捉えており、それを資本主義の構造的次元から考えているところは興味深い。