時局便乗屋 竹中平蔵


 竹中平蔵氏が日経新聞で以下のように語っている。

今の時代は世界的に保護貿易主義が主流です。
その上最近では新型コロナウイルスの流行も相まって、人の移動について報復合戦も見られました。
この根本は社会の分断にあると思いますが、10年後にはその解消に向け、様々な工夫が見られる時代になっているでしょう。
世界はこれから数年、痛い目を見たあとに、少なくとも5年後には、解消に向けた議論が真剣にされているはずです。
新しい技術が世間に行き渡るイノベーションも、次々と起きることになるでしょう。
次世代通信規格「5G」は、技術的にはすでに確立していますが、遠隔医療などに見られるように、規制が障壁になり実用化が遅れているものもあります。
今後10年は先端技術が民間で実用化されるために、一つ一つ議論する時代になるのだと思います。
ですが、それに伴って今ある職業が急になくなるような状況もあるかもしれません。
そこで必要なのが、最低所得を保障する「ベーシックインカム」です。
人が生きていくために最低限必要な所得を保証することができれば、一度失敗しても、積極果敢に再びチャレンジできる環境になるはずです。

 この記事には「社会の分断 正す十年に」という題がついている。
 小泉、安倍時代を通じてさんざん社会の分断を進めてきた竹中氏が「分断」を問題視するとは片腹痛い。
 竹中平蔵は新自由主義者ですらなく、時局便乗を旨とする政治屋、カネの臭いにたかるだけの存在である。
 わたしはすでに竹中について以下のように書いている。手前味噌だが再掲したい。なお、わたしは第二次安倍内閣が始まった当初(いや、始まる前の選挙の時から)から安倍内閣を批判してきたことを申し添える。

 安倍内閣では産業競争力会議なるものを開催し、竹中平蔵を委員として招聘し、新自由主義的な政策が練られている。安倍総理はどちらかと言えば新自由主義から遠い人物だと見られがちである。それは今回の政権奪取時にもそうであったし、小泉総理の後を継いで総理大臣になったときもそうだった。だがどちらも実際は新自由主義的な政策を実行しようとしている。安倍氏は愛国や保守を隠れ蓑に新自由主義的な政策をとる人物ではないのか。そういった意味でも安倍内閣は正当に批判される必要がある。この新自由主義と比べれば幾分ましなものの、財政出動を旨とする思想もまた、単に政府が介入したほうが、経済が活性化される場合もある、といった程度の考えであった場合、新自由主義と同じ穴のむじなだ。国を率いる立場として、その社会の構成員それぞれが生活を営めるよう苦慮するのが政治家の職務であるはずだ。それは経済的な効率よりもはるかに重んじられるべきものだ。安倍内閣はこの財政出動論と新自由主義論が奇妙に結合して成立している。
 安倍内閣は第一次で「美しい国」と言っていたときより、第二次の「経済の再生」と言っている今のほうが、したたかで政治家として成長している、という見方がある。だがアベノミクスの金融緩和や成長戦略などは、大方アメリカで行われていることの後追いでしかない。むしろ第二次安倍内閣のほうが、理想を放棄した分一層対米依存を強めているという見方もできるのではないか。
 竹中平蔵は新自由主義者と呼ばれることを嫌う。竹中は「経済思想から判断して政策や対応策を決めることはありえない」(『経済古典は役に立つ』5頁)といい、小泉総理にこれからは新自由主義的な政策を採用しましょうなどと言ったことは一度もないという(佐藤優、竹中平蔵『国が滅びるということ』20頁)。日々起こる問題を解決しようと努めてきただけだ、というわけである。だが、あまたある事象の中でどれを問題とし、どういう解決を図るかは、やはり思想が大きな影響を与えているのではないか。あるいは竹中にとって市場原理によって物事を解決することは自明のことだと思っている余り、それが一思想に過ぎないことが見えていないのだろうか。ところで佐藤は竹中のマルクス理解の正確さをほめたたえているわけだが(『国が滅びるということ』11~12頁)、知っていて言っているのかどうかわからないが、竹中は高校生の時期に民青に関わっていた(佐々木実『市場と権力』25~29頁)。竹中は確かにイデオロギー的に新自由主義を信じている人物ではないのかもしれない。自由放任と「神の見えざる手」の信奉者ですらなく、むしろその時々で流行りの議論に飛びつき、それを日々起こる課題に対応しているだけだ、と嘯く類の人間と言ったほうが適切だろう。竹中の比較的古い著作、例えば私の手元にある『民富論』(1994年刊行)を紐解けば、そこでは竹中はインフラなどの「社会資本」の重要性を説いたり(65頁)、自由貿易は錦の御旗ではない、というなど(172頁)、現在の竹中の印象とはまた違った側面を見ることができる。竹中が小泉内閣の時は新自由主義的な発想から政策を進め、今安倍内閣においても、「アベノミクス」のブレーンの一人となっているのは本人にとっては矛盾ではないのであろう。

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