「外国人技能実習生」の問題
外国人労働者ならぬ実質的移民の少なからぬ一部を占めるのが、「外国人技能実習生」の存在である。そもそも、この「技能実習制度」は、外国人材への技術移転を通じた国際貢献を目的として93年に創設されたものであるが、実際には、外国人による単純労働の隠れ蓑として悪用されている実態がある。現在我が国には、今年(17年)6月時点で25万人を超える実習生が存在するとされ、新規入国者数は、13年が約69000人、14年が約84000人、15年が99000人とその数は年々増加している。国籍別の内訳をみると、シナとベトナムが全体の約七割を占めている。問題なのは、この「技能実習制度」で来日した外国人の失踪が多発していることだ。その数は、実習生の増加に伴い増加し、16年には5058人に上った。失踪者の多くは、建設現場など不法就労に従事するか、難民申請をしながら働いているとされる。外国人実習生の失踪が多発する要因としては、受け入れ先が長時間・低賃金での過酷な労働を強い、パスポートを取り上げたり、夜間外出を禁止したりする等の人権侵害行為が横行している事実が指摘されている。このため、政府は今年11月から「技能実習適正実施・実習生保護法」を施行し、実習生を斡旋する「管理団体」を許可制にし、新たな監督機関を設けるなどの対策を講じている。
一方で、上述したように、本来、国際貢献を目的としながら、実際には単純労働力の確保に悪用されている現行の「技能実習制度」事体の是非については、何の議論もされていない。実習生の失踪が相次いでいるにもかかわらず、失踪者を出した団体・企業への新規受け入れ停止措置は過去五年間で一度も行われていない。それどころか、前述した「技能実習適正実施・実習生保護法」では、優良な受け入れ先の実習期間が三年から五年に延長され、技能実習の対象となる業種として新たに「介護」が追加された。つまり、安倍内閣は、現行の実習制度の是非を検証することなく、なし崩し的に実習生の受け入れ要件を緩和し、実習分野を「介護」にまで広げることで、これまで政府が名目上否定してきた単純労働力の受け入れを実質的に解禁しようとしている。