「売国保守」安倍首相の罪状14


アベノミクスの挫折

 

第二次安倍内閣が発足してから五年が経った。これまで安倍内閣の経済運営が、デフレからの脱却を最優先課題に掲げ、アベノミクスによる三本の矢を放ち、景気浮揚を図って来たのは周知の通りである。三本の矢とは、金融緩和、財政出動、そして成長戦略を指す。その成果はどうであったか。

まず第一の金融緩和に関して、日銀は当初黒田総裁の下で物価上昇率2%、名目GDP成長率3%の目標を掲げ、「異次元の金融緩和」の名の下に、段階的にマネタリーベース(MB)を増やしてきた。マネタリーベースとは社会に出回っている現金と日銀にある金融機関の当座預金の合計額のことである。日銀は12年末に138兆円あったMBを2年後に2倍の270兆円に増やし、さらには二次目標として15年12月までに350兆円まで増やすと宣言し、長期国債投資信託などの金融商品を大量に買い上げて来た結果、13年3月には135兆円だったのが、14年3月で209兆円、15年3月には296兆円と倍増したが、一方で非金融機関の民間部門が保有する預金や現金の合計額であるマネーストックは13年3月で1150兆円、14年3月で1174兆円、15年3月で1177兆円とほとんど増えておらず、日銀が放出したマネーは金融機関に滞留し、民間への貸し出しや需要増にはつながっていない。このため17年11月の消費者物価指数は0.9%の上昇に止まり、目標の2%には遠く及んでいない。ここで言う消費者物価指数(コアCPI)は、天候による変動の大きい生鮮食品を除いた指数であるが、さらに原油などエネルギー価格の上昇を除いたコアコアCPIで見ると0.1%の上昇に過ぎず、物価上昇率は限りなくゼロに近いのが現状である。また、日銀の金融緩和によって円安になれば、輸出が増えて雇用も増えるというような、よくある議論も耳にするが、すでに我が国の製造業は生産拠点を海外に移転している上に、円安による原料価格の高騰は生産コストを押し上げ、輸出創出効果を減殺している。事実、アベノミクスが始まってから、為替レートは急激に円安になり、株高によって企業業績も回復したが、米国や中国、EUへの輸出数量は何れもほとんど変化がない。

これらの事実は実体経済に対する金融政策の無力を意味しているのではなく、経済のデフレ局面においては、金融緩和と同時に財政支出を増やして需要を創出し、日銀マネーが市中に浸透する様にしなければならないという事である。そこで第二の矢が重要になるが、安倍内閣では財務省を始めとする財政規律派が、依然としてプライマリー・バランス(基礎的財政収支)の黒字化を強硬に主張し、安倍首相も彼等の声に引き摺られる形で2020年までのプライマリー・バランスの黒字化を公約し、19年には消費税の10%への増税が予定されている。しかし、財政規律を理由としたデフレ下での緊縮財政、増税政策は、経済の更なるデフレ収縮を引き起こし、日銀による折角の金融緩和による政策効果を台無しにしてしまう。

それに政府は、我が国の財政危機を強調し、消費増税を正当化しておきながら、一方では法人への法定税率を16年の32.11%から17年には29.97%、そして18年には29.74%へと段階的に引き下げる方針を示し、特に大企業には「国際競争力を高める」などと称して「租税特別措置による政策減税」などの優遇特権を与えているため、実効税率は極めて低く、17年3月時点の法定税率25.5%に対して実効税率はその6割にあたる15.6%に過ぎない。さらに、資本金が10億円規模までは、資本金の額に比例して実効税率が上がっていくが、それを超えて資本金の額が増えていく場合には、逆に実効税率は低下し、特に資本金100億円以上の大企業に適用される実効税率13%は、資本金1000万円以下の企業の法人税率(13.6%)と同じになるという、「逆累進」とも言い得る極めて不公正な税制が罷り通っているのである。こうした大企業優遇税制の結果、例えば三井住FG0.001%、ソフトバンク0.003%、みずほFG0.097%、三菱UFJFG0.306%、ファースト・リテイリング6.91%、丸紅7.1%といったように、我が国の最上位に位置し、本来最も法人税を納めるべき大企業が、最も納めていないというふざけた現状があるのである。中央大学の富岡幸雄教授によると、こうした大企業への不公正な減税相当額はトータルで9兆4065億円になり、この財源を以てすれば10%への消費増税中止はおろか、5%までの消費減税が可能であるという。このように、政府は財政危機を煽って消費増税を正当化しているが、その実は、法人減税による税収減のつけを一般の消費者たる一般国民に押し付けているだけだ。ここに於いても大企業・株主重視、中小企業・消費者・労働者軽視のアベノミクスの実態が現れている。

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