大石凝真素美の「天地茁廴貫きの巻」について、大宮司朗氏は次のように書いている。
〈本書は明治三三年一一月、翁六七歳の時に脱稿したもので、前著の『弥勒出現成就経』の成立時から既に一〇年の年月を経過している。この間に『成就経』にすでにみられる「ス(○の中にヽ)の思想」、宇宙の四元素としての「天・火・水・地」を表象する天津金木の学がより深められ結実したのである。とはいえ伝記によればその草稿は少くとも明治三一年にはほぼ成っていたらしい。
なお本書は大正一二年に国華教育社版全集として活字になる以前に、すでに大本教の人々によって書き写され珍重されたことは、当時の関係者の言によっても、筆者の手元にある『神言聖辞』とは題するが同内容の写本からも窺える。実はこの書の内容の大略は、大本の出口王仁三郎氏が大正七年に機関紙『神霊界』大八洲号において本田霊学をも組み入れた形で紹介しているのである。
本書の内容は初めにス声の玄意について説き、次に天之御中主神、高御産霊神、神産霊神、「タカアマハラ」六声の秘解、次に至大天球中の修理固成、魂線、識心、三貴子の御出生、皇国日本に人類が造醸せられたる極元、四種の人種のいわれ、種姓の厳立、産霊の玄義、大宇宙たる天地と小宇宙たる人体の玄妙なる相関関係、天地自然の大度量衡を説示し、次に至大天球之中の御樋代である正方角体六合八角切り表面並びに裏面の真位、更には天津金木の神器の製作法を述べ、金木組立てによる八咫の鏡、十六紋菊図章、四季正調御年車に言及する。実にこの書には大石凝霊学の根源となる重要なる諸概念が悉く織り込まれ、圧縮凝集せられている。ために一読、不可解、難解の感を通常の人は免かれることはできない。しかし、再読、三読せられれば、誠に奥深き翁の霊学への糸口を見出し、他の翁の著作を理解し、応用していく上で大きな助けになるものと思われる。
なお本書で特に注目して頂きたいことは、神道系諸教団に量り知れない影響を与えたスの思想がはっきりとその全容を闇霧の中より現出してきたことである。
「此ス声の神霊を誠に明細に説き定る時は世界一切の極元の真体をも其成り立ちの秩序をも億兆万々劫々年度劫大約恒々兮大造化の真象をも逐一明に資り得らるる也。……中略……スの謂れを明に知らざればあるべからざる也。スが皇の極元なれば也」〉(「大石凝真素美全集解題」)