大石凝真素美の弟子水野満年は、大正15年に『大正維新に当りて』(国華教育社)を刊行した。以下、目次を掲げる。
緒言
一 先づ他山の石で玉を磨け
二 大日本帝国の使命
三 和光同塵の皇謨
四 国是と歴代の皇謨
五 国体の根本義
六 根本覚醒の要
其二
其三
七 皇国興隆の大道
八 神聖なる祖宗御遺訓
九 神聖遺訓の内容
十 神聖遺訓古事記に対する学者の誤解
十一 日本の大正維新は即世界の大正維新なり
十二 敬神崇祖と国民皆兵の本義
十三 神聖遺訓による内治外交の範畴
十四 大正維新の経綸
十五 土地人民奉還の上表文
附「遂次発表の書目」
大石凝真素美の「天津神算木之極典」について、大宮司朗氏は次のように書いている。
〈天津金木とは天地火水を表象する四分角二寸方形のものであり、その展開をもって形体無きものを象徴的に顕示し、その顕相の証微するところによって宇宙創造の秘機を悟り、さらには天地を動かすばかりの神秘力を得ると伝えられるもので、この書においては真訓を施した古事記に則って天津金木を置き足らわし、実に眼に物をみせてくれるのである。天津金木の製作法については、『天地茁廴貫きの巻』および水谷清『古事記大講』六巻に詳しく述べられている。それにもとづいて金木を製作し、実際に置き足らわして御覧になれば、望外の妙機に出会われることと確信するものである。
本篇においては『古事記』上巻を天津金木二本組をもって顕示しているが、熟達なされた方は、中巻以降、四本結、八本結、十六本結と本数を増やして、その運用の妙をつかまれることを願いものである。翁自身は本篇末尾において次のように書かれている。
「実に至大天球の中に於て此書に及ぶ者ある事無し。天文、科学、暦法の如きもその蘊奥の極を収めて照々赫々たり。釈迦の一切蔵理の如きに勝る事億万億也。其証たるや此の書の内に収まり有り在る明細を探り出す時は四十九億余万巻の真書を発表する者也」〉
大石凝真素美の「真訓古事記」について、大宮司朗氏は次のように書いている。
〈本篇は翁最晩年の著述である。水野満年翁宅において本書を脱稿一ヵ月後に微恙を覚えられ、療養に努めるも寄る年波のためか回復渉々しからず、翌々大正二年に逝去されるのである。そのため翁にとってなお不満とせられるところがいくつかあったようであるが修正の機会はなかった。
とはいえ、本篇こそは翁畢生の大著である。翁によれば『古事記』は無上の事実が八通り収められている極典であり、従ってその研究分野も八通りに大別される。(一)歴史、(二)天文、(三)地文、(四)暦術、(五)人類成立之極元、(六)日本語学、(七)天造之神算木の極典、(八)世界の大通義。本書は特に(六)をポイントとして翁独得の奇想天外から来るともいうべき解釈を縦横無尽に展開する雄篇である。『天津神算木之極典』末尾の一文からは、翁が稗田阿礼の再生との自覚を持っておられたことが窺えるが、とすれば、今の世のため本篇を最後に書き残し、人類の指針の大度衡とすることこそがその再生の使命だったとも言えよう。それ故種々指摘さるべき事柄は多いが、ことに注目されるのは、太古より伝来したとされる言霊図表「ますみの鏡」の玄義を初めて明らかにしていることである。
「日本語は円明正朗なる声が七十五声有る也。此の七十五声を写真に正列したる鏡を太古より真須美と云ふ也。此の真須美と日本全国の地体と密合して居る也。故に人の体と密合して居る也。又人の心の全体と密合して居る也」
かく断言し、『古事記』の解と絡めて詳説詳述しているのであるが、この師説を受けた水野満年翁は日本の地理と真須美の連関を示す図を書き残されており、一時三五(あなない)教の人々の間に流布されていたことがあり、私自身も見た記憶がある〉「大石凝真素美全集解題」
大石凝真素美の「大日本言霊」について、大宮司朗氏は次のように書いている。
〈徳川末期の言霊学者中村孝道の門人たりし祖父望月幸智より継承された言霊の奥義を基礎とし、刻苦研究すること数十年、明治三六年春、翁七二歳の時に大成されたのが、この『大日本言霊』であり、大正二年には水野満年により天覧にも供されている。直筆原本の標題には『大日本皇国言霊の巻』とある。
本篇において翁は、日本語の清音、濁音、半濁音の七十五声の音韻に秘められたる音義を明示し、これによって宇宙開闢以来の玄理を闡明したと言えよう。
「真素美の鏡」の図ならびに至大天球、地球の御樋代としての六角切り子の玉の上に示された言霊の玄意は単に文字のみをもって伝えられるものに非ずして、密教における曼陀羅のごとく観想の対象としての側面を有することに留意されたい。例えば「真素美の鏡」を注視してみれば次のようなことが自ら明らかになろう。
七十五音が普通の五十音とは違った形で配列されている。最下段にア行、中段にサ行、最上段にカ行が置かれ、そのうち「ア」「ウ」「イ」「サ」「ス」「レ」「カ」「ク」「キ」の九音が「九柱」として特別の意味を持つことに気付く。最下段のア行は最も重い音であり、最上段のカ行が最も軽い音である。サ行が中段にきて、全体の中心に「ス」がある。「ス」は「すめらみこと」や「すべる」の「ス」であり、万物を統合する働きがあることが感得せられる。この七十五段の「音」の階程は翁の考えによれば、宇宙存在の階層秩序であり、図中の「音」の相対的位置関係から七十五音それぞれの持つ「意味」というより「力」を演繹できるのである〉(「大石凝真素美全集解題」)
大石凝真素美の「天地茁廴貫きの巻」について、大宮司朗氏は次のように書いている。
〈本書は明治三三年一一月、翁六七歳の時に脱稿したもので、前著の『弥勒出現成就経』の成立時から既に一〇年の年月を経過している。この間に『成就経』にすでにみられる「ス(○の中にヽ)の思想」、宇宙の四元素としての「天・火・水・地」を表象する天津金木の学がより深められ結実したのである。とはいえ伝記によればその草稿は少くとも明治三一年にはほぼ成っていたらしい。
なお本書は大正一二年に国華教育社版全集として活字になる以前に、すでに大本教の人々によって書き写され珍重されたことは、当時の関係者の言によっても、筆者の手元にある『神言聖辞』とは題するが同内容の写本からも窺える。実はこの書の内容の大略は、大本の出口王仁三郎氏が大正七年に機関紙『神霊界』大八洲号において本田霊学をも組み入れた形で紹介しているのである。
本書の内容は初めにス声の玄意について説き、次に天之御中主神、高御産霊神、神産霊神、「タカアマハラ」六声の秘解、次に至大天球中の修理固成、魂線、識心、三貴子の御出生、皇国日本に人類が造醸せられたる極元、四種の人種のいわれ、種姓の厳立、産霊の玄義、大宇宙たる天地と小宇宙たる人体の玄妙なる相関関係、天地自然の大度量衡を説示し、次に至大天球之中の御樋代である正方角体六合八角切り表面並びに裏面の真位、更には天津金木の神器の製作法を述べ、金木組立てによる八咫の鏡、十六紋菊図章、四季正調御年車に言及する。実にこの書には大石凝霊学の根源となる重要なる諸概念が悉く織り込まれ、圧縮凝集せられている。ために一読、不可解、難解の感を通常の人は免かれることはできない。しかし、再読、三読せられれば、誠に奥深き翁の霊学への糸口を見出し、他の翁の著作を理解し、応用していく上で大きな助けになるものと思われる。
なお本書で特に注目して頂きたいことは、神道系諸教団に量り知れない影響を与えたスの思想がはっきりとその全容を闇霧の中より現出してきたことである。
「此ス声の神霊を誠に明細に説き定る時は世界一切の極元の真体をも其成り立ちの秩序をも億兆万々劫々年度劫大約恒々兮大造化の真象をも逐一明に資り得らるる也。……中略……スの謂れを明に知らざればあるべからざる也。スが皇の極元なれば也」〉(「大石凝真素美全集解題」)
水野満年が、大正12年から14年にかけて刊行した『大石凝翁全集』。
第一巻 天地茁廴貫きの巻
第二巻 三種神器の御謂礼 仏説観弥勒下生経(上)
第三巻 仏説観弥勒下生経(下) 弥勒出現成就経
第四巻 大日本言霊
第五巻~第八巻 天造神算木運用秘書
第九巻~第一二巻 真訓古事記 大石凝真素美先生伝
道義国家日本を再建する言論誌(崎門学研究会・大アジア研究会合同編集)