徳富蘇峰は、「国史に還れ」と題して次のように述べている。
「国史に還れといふことは、国民全体が歴史家になれといふことではない。それには専門の学者がある。唯だ日本の国民として、日本の歴史は如何なるものであるかといふことを、知つてゐる必要がある。或人は日本には地中に埋れてゐる鉱物が、比較的少いといふ。それは或は本当かも知れぬ。しかしながらその代りに日本国民は、三千年来の豊富な歴史を持つてゐる。地中の鉱物は堀りつくせば鉱脈が絶える。しかし歴史の輝ける脈は掘れども尽きぬ精神的の宝庫である。我等が日本国民として生きるにはどうすればいいかと思ふ時には、国史に還れ。我等が日本国民として活動する為には、どうすればいいかといふ場合に至つたならば、国史に還れ。此の無限の宝庫に向つて、知りたいと望む総てのものを求めよ。此の汲めども尽きぬ宝の庫は、大百科辞書よりも正確に、速かに、あらゆる質問に答へてくれる。国史を忘れて日本国民の行くべき道はわからない」(八重樫祈美編『愛国読本』野ばら社、昭和10年)