「マハティールの抵抗」カテゴリーアーカイブ

「アジアは繁栄してはいけないのか」─ノルディン・ソピー博士「EAEC:事実と虚構」

 1995年1月17日、日本マレーシア協会主催で「EAECを考えるシンポジウム」が憲政記念館講堂で開催された。ここで、マハティール首相のブレーンのノルディン・ソピー博士が「EAEC:事実と虚構」と題して基調講演を務めた。以下は、その講演録の一部である。EAECとはマハティール首相が1990年に提唱した東アジア経済協議体構想(当初は東アジア経済グループ構想)である。
 〈我々は日本に対してEAECに加盟するよう要請しているだけである。(中略)我々東アジア諸国が繁栄したいと望むことが、そんなに間違っているのだろうか。日本に対してその為のリーダーとなることを期待するのが、そんなに間違ったことなのであろうか。
 日本はアジアの国である、そして東アジアの国である。この地理的事実を避けて通ることは出来ない。つまり日本はこのアジアに属する国なのである。我々は日本に対して助けて欲しい、援助して欲しいと頼んでいるわけではない。この地域におけるリーダーになって欲しいと要求しているだけなのである。そして我々と共にこの機構に入って中心的な役割を果たして欲しいと要求しているのである。日本にはそれに相応しい地位と能力が備わっており、我々の平等な仲間であるが、率先して役割を果たすそんなパートナーとなって欲しいと要請しているのである。(中略)私は政府の人間でもなく、一人の学者に過ぎない。しかし、今お話ししたことは、私個人の意見ではなく、東アジア諸国の多くの人が共有する考えである。
 日本はアメリカを取るかアジアを取るかといった選択に直面しているわけではない。当然ながら日本はその両方を取らねばならない。
 しかしながら、もし日本がアジアに対し背を向けてしまうのなら、それはアジアにとって大きな損失となるであろう。そしてそれは日本にとっても大きな損失となるであろう〉

マハティール 92歳の闘い

ナジブ首相の汚職疑惑
 「マレーシアの父」と呼ばれ、国民に慕われるマハティール氏は、権力にしがみつくことなく、2003年に惜しまれながら引退した。それから15年。92歳の高齢となったマハティール氏がいま野党連合・希望同盟の首相候補として出馬するのは、一体なぜなのか。
 それは、ナジブ政権を打倒しなければならないからである。いまナジブ首相の汚職疑惑に対する国民の不満が高まっている。そして、ナジブ政権はマハティール氏が築き上げた自主独立の外交から遠ざかろうとしている。さらに、マハティール氏が日本企業の協力を得て発展させてきた、国産自動車会社プロトンの株式を中国の自動車大手、吉利汽車の親会社である浙江吉利控股集団に売却してしまった。
 しかも、政権批判する人々に対して、ナジブ首相は極めて強権的な姿勢を強めている。2018年4月3日にはフェイク・ニュース対策法が成立した。悪意を持って間違ったニュースを流したら、最高50万リンギ(約1390万円)の罰金か6年以下の禁錮刑、または両方を科すという法律だ。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」は「政府が好まないニュースの拡散を止めるための露骨なたくらみであり、表現の自由を正面から攻撃するものだ」と批判している。
 姑息なことに、ナジブ首相は解散を表明する直前に、与党に有利とされる選挙区の区割り変更を行った。
 しかもナジブ首相は4月5日には、マハティール氏が率いる「マレーシア統一プリブミ党」(Parti Pribumi Bersatu Malaysia)に対して、30日間の活動停止を命じたのだ。
 ナジブ首相の汚職疑惑とは何か。2009年にナジブ首相の肝いりで設立された政府系ファンド「1MDB」から、不正資金が同首相の個人口座に振り込まれたとの疑惑である。
 『ウォールストリート・ジャーナル』(2016年3月1日付、以下WSJ)の報道によると、ナジブ首相の口座に、2011年から13年の間に10億ドル(約1136億円)を超える入金があった。資金は数カ国の複雑な取引網を通じてナジブ首相の口座に送金された。送金にはアラブ首長国連邦アブダビ首長国の元当局者が関わっていた。
 「1MDB」のアドバイザーを務め、莫大な利益をあげてきたのが、米金融大手ゴールドマン・サックスである。マネーロンダリング(資金洗浄)が行われた疑いがあり、米当局だけではなく、世界的な捜査が展開されています。アメリカ、マレーシア、シンガポール、スイスなどが協力して調査をしている。 続きを読む マハティール 92歳の闘い