本日平成三十年一月二十日、稲村公望氏と菊池英博氏による「郵政国営化に舵を切れ」と題する講演会に参加した。講演の内容は両氏の共著『郵貯マネーはどこへ行った』の内容に内包されていたので、此処では述べない。ただ小生から二点程質問したのは、第一に、郵政の「国営化」とは如何なる内実を指すのか、国が郵政の株を持つという事か、第二に、郵政マネーは財投や国債購入による公共投資の原資とされたが、これに代わって日銀が国債を買い続ければ良いのではないか、という事であった。これに対しては、まず稲村氏、旧郵政公社は独立採算で税金はびた一文使ってはいなかったこと、つまり最初から国営ではなかったこと、郵政の国営化は必ずしも必要ではなく、郵政の民営化が私物化と化している事に問題があるとの考えであり、菊池氏は、株主の利益、配当を優先するのかという問題だと述べられた。また第二について、菊池氏は、日銀の国債購入は金融政策でも何でもない、極めて亜流であり、バーナンキは13年夏にマネタリーベースが名目GDPの20%を超えたことへの責任で14年に辞任したが、目下の日本ではGDPの80%に達しており、その内買えなくなる、との回答であった。
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「売国保守」安倍首相の罪状17
「瑞穂の国の資本主義」を取り戻すために
こうしてみると、この五年間におけるアベノミクスの成果は悲惨だ。たしかに、この五年間で日経平均は倍増し(2012年12月26日の10230円から2017年12月26日22892円)、GDPも50兆円増えた(2012年10‐12月期の492兆円から17年7-9月期549兆円)が、株価上昇に関しては、日銀やGPIFが国内株を大量に買い入れ株価を吊り上げたことによる「官製相場」であるから当然の結果であり、実体経済の好調を反映したものではない。むしろ、前述したように日銀の異次元緩和によってマネタリー・ベースが336兆円増加したのに対してマネー・ストックの増加は165兆円に過ぎず、両者の差額の171兆円は、金融機関からヘッジファンドなどへの融資を通じて、海外の投機筋に流れているという指摘もある。いまや我が国における株式取引の7割が海外投資家による売買となっており、これと、アベノミクスによる急激な円安によって日本株がドル評価で割安になっていることなどから、外資による日本株の「買い叩き」が進…行しているのである。一方で、円安によっても輸出は増えておらず、むしろ原料価格の高騰などによって消費を圧迫している。こうしてみるアベノミクスによる株高で恩恵を受けるのは、日本企業を買い叩き、莫大なキャピタル・ゲインと配当を手に入れる海外投機家に過ぎない。彼らは短期的な利益を追及するあまりに、「もの言う株主」として、企業の経営陣に高い自己資本利益率(ROE)を要求し、それが企業を自社株買いや、人件費、設備投資、研究開発等の抑制に向かわせる要因になっている。また人件費の抑制は、労働者に長時間労働を強い、設備投資や研究開発費の抑制は、技術革新を通じた企業の長期的発展を損なう原因となる。事実、我が国の企業が過去最高益を記録し、内部留保を積み増す一方で、労働分配率はむしろ下がっており、実質賃金は5年前(12年12月)よりも0.1%減少(17年10月時点)した。つまり、海外投機筋が企業利益を吸い上げる一方で、人件費を抑制された労働者は、低賃金・長時間労働に苦しむという搾取の構造が成り立っているのである。実質賃金の低迷は家計の消費支出を圧迫し、デフレを長期化させる一因になっていることは言うまでもない。
こうしてみると、我が国の金融政策においてデフレ脱却を妨げる最大の障害は、過度な金融市場の自由化が招いた株主資本主義の蔓延と、短期利益を目的とした投機マネーの跳梁跋扈にあるとも言いうる。したがって、政府は労働分配率を上げた企業に減税措置を講じるといった形で人件費拡大へのインセンティブを付与すると共に、投機取引への課税であるトービン税を導入するなどして、実体経済の堅実な成長を促進すべきである。
また財政政策においても、19年10月に予定される消費増税や20年を目途としたPBの黒字化目標は、折角の日銀による異次元緩和の効果を減殺し、デフレから脱却を遅らせる要因となるから撤回すべきだ。上述したように、我が国の大企業は「租税特別措置」によって法人税を殆ど減免されて、莫大な利益を株主への配当や内部留保に割り当てている一方で、財政再建のつけが消費増税に回されているのである。よって政府はこうした不公正極まりない税制を是正し、大企業への「租税特別措置」を廃止すると共に、19年10月の消費増税を中止し、逆に消費税5%への減税を実施すべきである。また政府は、PB目標を放棄し、デフレ型の縮小均衡ではなく、公共投資の拡大による成長型の財政均衡を目指すべきである。前述したエコノミストの菊池英博氏は、人口減少時代にふさわしい国土刷新計画として「5年間100兆円の政府投資を実行すれば、民間投資を誘発し、その相乗効果で成長力が強まり、税収の増加で政府投資は5年間でほぼ回収できる」と提案している。またこれも前述した様に、戦後の経済成長を牽引した公共投資の原資は、財投を通じた中央から地方への資金還流や郵政・年金資金による安定的な国債購入によって成り立っていたが、折からの構造改革は、そうした資金供給ルートを遮断した。その結果、我が国の金融資産の大部分を占める郵政・年金資金は、自主運用とされ、国債での運用比率が下がる代わりに株や外債での運用比率が飛躍的に高まっている。こうした中で、政府は、将来における公共投資の原資を安定的に調達する為に、日銀が政府による国債発行と同じペースで国債を購入し続けることを確約させるか、郵政グループや年金機構への統制(経営権)を復活して、資金運用の主たる使途を国債の購入に限定する必要がある。
そして最後に、安倍内閣は、一連の規制緩和政策を廃止し、竹中平蔵等、小泉構造改革の残党を政府内から一掃すべきである。繰り返し述べたように、竹中等はアメリカや外資と結託して我が国に規制緩和を強要し、それによって生まれた利権を私物化している。目下、安倍内閣が推し進める、労働規制緩和、混合医療解禁、国家戦略特区、農協改革は、何れも我が国の共同体的な相互扶助に基づいた社会経済システムを破壊し、これをアメリカやグローバル資本の利益に従属させるものであるから、全面的に廃止すべきだ。なかでも安倍内閣による新自由主義の最たる政策であるTPPがトランプ政権の誕生によって挫折したことは我が国にとって天佑神助と言うべきである。食糧安保は国家独立の根幹であり、我が国がなすべきなのは、ただでさえ希薄な農業への保護を撤廃するのではなく、逆に現在11.7%に過ぎない平均関税をEU並(19.5%)に引き上げ、輸出補助金等の財政補助によって最低限の食料自給体制を確保すると共に、種子法廃止による食の安全への不安を払拭して、質量の両面における食料安保体制を構築せねばならない。
詰まる所、我が国の経済再生は、旧来の新自由主義と決別し、共同体的な相互扶助に基づく「瑞穂の国の資本主義」を取り戻せるかにかかっているのであって、それは取りも直さず、我が国が真の経済的独立を獲得できるかという問題に等しいのである。
「売国保守」安倍首相の罪状16
保守の仮面を被った新自由主義者
エコノミストの菊池英博氏は、その著『新自由主義の自滅』のなかで、安倍内閣による新自由主義的な亡国政策として①税法の破壊ー法人税減税②労働法の破壊ー労働時間管理から経営裁量労働制へ③医療の破壊ー混合診療をテコに国民皆保険の崩壊④国家主権の破壊ー「戦略特区」という租界⑤農業の破壊ー農協解体と食料自給率低下を挙げている。
①については前述した通りであり、大企業重視、消費者軽視の不公正な税制が罷り通っている。
②について、安倍内閣は、小泉内閣以降推し進められて来た労働規制緩和を拡大し、これまで最長3年であった派遣期間を廃止し、同一部署での派遣労働を3年と改めることで、実質的な派遣雇用の永久化を可能にする「派遣法改訂」、ホワイトカラーに対する1日8時間・週40時間の法定労働時間制を廃止し、労働生産性の向上と称して裁量労働制による無償残業を可能とする「残業代ゼロ法案」、これまで原則解雇が不可能であった労使関係を改め、金銭による自由解雇を可能にする「金銭解雇自由法案」等を推し進めている。派遣労働を含む非正規雇用の増加は、安倍内閣に始まったことではないが、少なくとも安倍内閣による一連の労働規制緩和政策が、こうした傾向に掉さしていることは間違いなく、非正規雇用の拡大は実質賃金を押し下げ、経済に対するデフレ圧力となっている。安倍首相は、自らの政権下で有効求人倍率が12年10月の0.83倍から1.56倍(17年5月)となったことを強調しているが、そもそも少子高齢化によって就労人口が減少しているのであるから、有効求人倍率が上がるのは当然であるし、その内実が労働規制緩和による非正規雇用の拡大によるものであり、そのせいで実質賃金はむしろ低下しているのであれば本末転倒であり、利益を得るのはパソナのような人材派遣会社だけである。
③について、国民保険適用外の自由診療と保険内診療の併用を認める「混合診療」は、上述した「年次改革要望書」にも記されたアメリカの対日要望事項である。アメリカは保険外診療の拡大によって、未承認新薬の販売と新たな保険市場の創出を狙っており、その為に我が国の世界に類稀なる国民皆保険制度の形骸化を目論でいるのである。国民皆保険制度の形骸化は、貧富の間における国民の医療格差を拡大し、一君万民の国体にもとることは言うまでもない。
④に関して、国家戦略特区は、昨今の家計学園問題に象徴される様に、規制緩和の弊害を見事に露呈している。そこでは外国資本を含む企業の自由な参入による公正な競争が謳われながら、その裏では安倍首相と気脈を通じた一部のレント・シーカーが不当な政治圧力を加えて国家の行政手続きを歪め、規制緩和によって生まれた利権を私物化しているのである。その中心にいるのが、国家戦略特区制度を首唱し、現在も政府の諮問会議で民間議員を務める竹中平蔵だ。竹中が農業改革特区で、外国人による農業移民の受け入れを解禁させ、自らが会長を務めるパソナにその斡旋業務を受注させているという、露骨な利益相反の問題については前に触れた通りだ。
そして⑤の農協改革について、政府は、表向きの目的を「農家所得の向上」などといっているが、その実態は、農協の100兆円に近い(JAバンク貯金92兆円、JA共済契約保有高300兆円)莫大な金融資産の簒奪を企むグローバル資本が在日米国商工会議所を通じて我が国に市場開放を要求し、政府がこの外圧に屈服した結果に他ならない。2014年5月、在日米国商工会議所は、JAにおける農業事業から農林中金やJA共済連などの金融事業を分離し、他の金融会社と同等の条件で競争させ、さらに准組合員による利用を規制するよう我が国政府に「提言」した。この「提言」ならぬ「要求」を受けて、政府の規制改革会議は、早速同月に「農業改革に関する意見」を公表し、全中の廃止、全農の株式会社化、准組合員の事業利用を正組合員の二分の一に規制といった急進的要求をJAに突き付けたのである。その改革の急先鋒が小泉進次郎であり、彼は父純一郎がアメリカの手先として郵政民営化を強行し、郵政マネーを外資に明け渡したのと同様に、今度は農協を解体して莫大な農協マネーを外資の餌食に供しようとしている。正に売国の遺伝子、竹中と同類の国賊という他なく、こうした連中を政権の内部で重用している安倍首相も売国行為に加担しているのである。
亡国のTPP
そして何といっても、安倍内閣による規制緩和政策の最たるものは、やはりTPPであったろう。かつて安倍首相は、民主党によるTPP参加を公約違反として批判し、「聖域なき関税撤廃を前提とするTPPには断固反対」と言って、農協票を獲得しておきながら、一度政権を奪還するや掌を返した様にTPPを積極的に推進し出し、これに反対する農協を「我が国農業の競争力を阻害している」などと言い掛かりをつけて解体してしまった。そもそも我が国は国土面積が狭い上に、農地が国土に占める割合も小さい。農業の平均経営面積はアメリカが日本の75倍、EUが6倍、そしてオーストリアが1309倍と圧倒的な開きがあり、農産物の関税を撤廃すれば、我が国の農業が壊滅的打撃を被るのは目に見えている。また我が国の農業が政府によって過重に保護されているという見方についても、我が国の農家の所得に占める財政負担の割合は、15.6%と、アメリカの26.4%、フランス90.2%、イギリス95.2%と比較しても格段に低く、平均関税率についても我が国は11.7%、アメリカは5.5%であるが、EU19.5%と比べ決して高くはない。こうした状況下での関税撤廃は、ただでさへ競争条件が不利で政府の保護も希薄な我が国の農業を壊滅させ、食料自給率の一層の低下を招き、食料安保におけるアメリカへの従属強化を招く事は必定だ。
我々国民は、安倍首相が政権奪還をかけた2012年12月の総選挙を前に、『文藝春秋』で次の様に述べていたことを忘れてはならない。
「日本という国は古来から朝早く起きて、汗を流して田畑を耕し、水を分かち合いながら、秋になれば天皇家を中心に五穀豊穣を祈ってきた、『瑞穂の国』であります。自助自立を基本とし、不幸にして誰かが病に倒れれば、村の皆でこれを助ける。これが日本古来の社会保障であり、日本人のDNAに組み込まれているものです。
私は瑞穂の国には瑞穂の国にふさわしい資本主義があるだろうと思っています。自由な競争と開かれた経済を重視しつつ、しかしウォール街から世界を席巻した、強欲資本を原動力とするような資本主義ではなく、道義を重んじ、真の豊かさを知る、瑞穂の国には瑞穂の国にふさわしい市場主義の形があります。
安倍家のルーツは長門市、かつての油谷町です。そこには、棚田があります。日本海に面していて、水を張っているときは、ひとつひとつの棚田に月が映り、多くの漁り火が映り、それは息を飲むほど美しい。
棚田は労働生産性も低く、経済合理性からすればナンセンスかも知れません。しかし、この美しい棚田があってこそ、私の故郷なのです。そして、その田園風景があってこそ、麗しい日本ではないかと思います。市場主義の中で、伝統、文化、地域が重んじられる、瑞穂の国にふさわしい経済のありかたを考えていきたいと思います。」
今となっては、もはや悪い冗談にしか聞こえないが、安倍首相が推し進めたTPPは瑞穂の国たる我が国の農業をアメリカの強欲資本主義に売り渡し、故郷の美しい棚田を台無しにする売国政策だ。幸い自国第一主義を掲げるトランプ大統領の誕生によって、TPPは未遂に終わったが、少なくともこの一件によって安倍首相の正体が、保守の仮面を被った新自由主義者であることだけははっきりした。
種子法廃止とグローバル資本の脅威
どちらかと言うとTPPによる関税撤廃がもたらすのは、食料自給率の低下という、いわば「量的」危機であるが、17年4月安倍内閣が成立させた種子法廃止法案は、我が国の農産物を遺伝子組換種子で汚染し、「質的」危機をもたらすものだ。通称「モンサント法案」と呼ばれるこの法案の成立によって、これまで都道府県に義務付けられてきた、稲、麦、大豆といった主要作物の種の生産や普及は根拠法を失い、民間企業の参入が加速すると思われる。問題なのは、この民間参入の拡大によって、モンサントなどのグローバル企業が我が国に「高生産性」を売りにした遺伝子組換種子などを持ち込み、食の安全性を脅かすのみならず、種子への「特許権」を通じて、我が国の農業を実質的に支配する可能性があることだ。
どうやら、この国民のほとんど誰も知らない種子法廃止を提言したのは、首相の諮問
機関である「規制改革推進会議」及び「未来投資会議」のようであるが、そのメンバーを見ると、むべなるかな、竹中平蔵を始め、小泉構造改革の残党、グローバル資本の走狗と化した新自由主義者達が名を連ねている。彼らの狙いは、国家の戦略資源である種子、国家独立の根幹である農業をグローバル資本に売り渡すことに他ならない。もっとも仮にTPPが締結されていれば、種子法もISD条項によって、モンサントから提訴されていた可能性がある。
以上みた様に、安倍内閣は、経済成長の為の規制緩和と称しながら、その実はアメリカによる自由化要求に屈し、竹中を始めとするレント・シーカーと結託して新自由主義構造改革を強行することによって、我が国の社会経済システムそのものを、アメリカやグローバル資本の利益に従属させようとしている。
「売国保守」安倍首相の罪状15
アベノミクスにつきまとう緊縮財政論の呪縛が日銀による量的緩和の効果を減殺し、我が国経済のデフレからの脱却を遅らせている元凶である。目下の様に消費と設備投資が収縮しているなかでは、政府が公共投資を拡大して有効需要を創出し、民間の投資を牽引して国民所得を拡大し、消費を拡大することでデフレスパイラルからの脱却を図らねばならない。しかるにアベノミクスにおける第三の矢、すなわち「成長戦略」と称した一連の規制緩和政策は、新自由主義的な構造改革の延長であり、政府による公共投資を構造的に困難にし、国民を貧富の格差で分断し、我が国の経済をデフレの奈落に突き落とす愚策である。そしてその規制緩和の背後では、竹中平蔵を始め、規制緩和によって生まれた利権を食い荒らすレントシーカーが暗躍しているのである。彼らは国家国民の生き血を吸う吸血鬼である。
周知のように今世紀初頭に発足した小泉内閣は竹中平蔵を司令塔に据えた新自由主義的構造改革を推し進め、郵政民営化を強行した。当時の旧郵政公社は、郵便局と郵貯・簡保の三位一体で成り立っていたが、小泉・竹中は、郵政公社を民営化して郵貯・簡保の金融2社を分離しこれをこれを売却することを決定したのである。
しかし、それまで郵便局を通じて郵貯と簡保の金融二社で集められた資金は政府に集中され、政府が発行する国債の購入資金と財政投融資の原資として運用されてきた。財政投融資は、民間での投資にそぐわない分野への公共投資と社会的インフラストラクチュア向け投資に向けられて国土建設に使われ、戦後の経済成長を牽引して来た。2000年までは、財政投融資の原資は、郵便貯金と簡保生命に加えて公的年金資金が大蔵省理財局資金運用部に預託されここから政府系金融機関や道路公団などの特殊法人への融資と国債・地方債・特殊法人への投融資として活用されていた。こうして国民から集めた資金が地方経済に還流していたのである。
また政府の国債発行による資金調達について見ても、当時、日本国債の保有者別内訳は、国債発行額の95%までを国内の投資家が保有しており、極めて安定した調達構造になっていた。とりわけ、郵政公社が全体の三割を保有していた為、郵政公社が民営化されれば、この郵貯資金が海外に流出し、日本国債の保有構造が崩れ、長期金利の上昇となって日本経済に大きな打撃を与えることが懸念された。このように、郵政民営化は政府による公共投資の原資を枯渇させ、デフレ脱却の為の機動的財政出動を構造的に困難にする政策なのである。(以上の記述は、菊池英博・稲村公望共著『ゆうちょマネーはどこへ消えたか』から多くを引用した)
「売国保守」安倍首相の罪状14
アベノミクスの挫折
第二次安倍内閣が発足してから五年が経った。これまで安倍内閣の経済運営が、デフレからの脱却を最優先課題に掲げ、アベノミクスによる三本の矢を放ち、景気浮揚を図って来たのは周知の通りである。三本の矢とは、金融緩和、財政出動、そして成長戦略を指す。その成果はどうであったか。
まず第一の金融緩和に関して、日銀は当初黒田総裁の下で物価上昇率2%、名目GDP成長率3%の目標を掲げ、「異次元の金融緩和」の名の下に、段階的にマネタリーベース(MB)を増やしてきた。マネタリーベースとは社会に出回っている現金と日銀にある金融機関の当座預金の合計額のことである。日銀は12年末に138兆円あったMBを2年後に2倍の270兆円に増やし、さらには二次目標として15年12月までに350兆円まで増やすと宣言し、長期国債や投資信託などの金融商品を大量に買い上げて来た結果、13年3月には135兆円だったのが、14年3月で209兆円、15年3月には296兆円と倍増したが、一方で非金融機関の民間部門が保有する預金や現金の合計額であるマネーストックは13年3月で1150兆円、14年3月で1174兆円、15年3月で1177兆円とほとんど増えておらず、日銀が放出したマネーは金融機関に滞留し、民間への貸し出しや需要増にはつながっていない。このため17年11月の消費者物価指数は0.9%の上昇に止まり、目標の2%には遠く及んでいない。ここで言う消費者物価指数(コアCPI)は、天候による変動の大きい生鮮食品を除いた指数であるが、さらに原油などエネルギー価格の上昇を除いたコアコアCPIで見ると0.1%の上昇に過ぎず、物価上昇率は限りなくゼロに近いのが現状である。また、日銀の金融緩和によって円安になれば、輸出が増えて雇用も増えるというような、よくある議論も耳にするが、すでに我が国の製造業は生産拠点を海外に移転している上に、円安による原料価格の高騰は生産コストを押し上げ、輸出創出効果を減殺している。事実、アベノミクスが始まってから、為替レートは急激に円安になり、株高によって企業業績も回復したが、米国や中国、EUへの輸出数量は何れもほとんど変化がない。
これらの事実は実体経済に対する金融政策の無力を意味しているのではなく、経済のデフレ局面においては、金融緩和と同時に財政支出を増やして需要を創出し、日銀マネーが市中に浸透する様にしなければならないという事である。そこで第二の矢が重要になるが、安倍内閣では財務省を始めとする財政規律派が、依然としてプライマリー・バランス(基礎的財政収支)の黒字化を強硬に主張し、安倍首相も彼等の声に引き摺られる形で2020年までのプライマリー・バランスの黒字化を公約し、19年には消費税の10%への増税が予定されている。しかし、財政規律を理由としたデフレ下での緊縮財政、増税政策は、経済の更なるデフレ収縮を引き起こし、日銀による折角の金融緩和による政策効果を台無しにしてしまう。
それに政府は、我が国の財政危機を強調し、消費増税を正当化しておきながら、一方では法人への法定税率を16年の32.11%から17年には29.97%、そして18年には29.74%へと段階的に引き下げる方針を示し、特に大企業には「国際競争力を高める」などと称して「租税特別措置による政策減税」などの優遇特権を与えているため、実効税率は極めて低く、17年3月時点の法定税率25.5%に対して実効税率はその6割にあたる15.6%に過ぎない。さらに、資本金が10億円規模までは、資本金の額に比例して実効税率が上がっていくが、それを超えて資本金の額が増えていく場合には、逆に実効税率は低下し、特に資本金100億円以上の大企業に適用される実効税率13%は、資本金1000万円以下の企業の法人税率(13.6%)と同じになるという、「逆累進」とも言い得る極めて不公正な税制が罷り通っているのである。こうした大企業優遇税制の結果、例えば三井住FG0.001%、ソフトバンク0.003%、みずほFG0.097%、三菱UFJFG0.306%、ファースト・リテイリング6.91%、丸紅7.1%といったように、我が国の最上位に位置し、本来最も法人税を納めるべき大企業が、最も納めていないというふざけた現状があるのである。中央大学の富岡幸雄教授によると、こうした大企業への不公正な減税相当額はトータルで9兆4065億円になり、この財源を以てすれば10%への消費増税中止はおろか、5%までの消費減税が可能であるという。このように、政府は財政危機を煽って消費増税を正当化しているが、その実は、法人減税による税収減のつけを一般の消費者たる一般国民に押し付けているだけだ。ここに於いても大企業・株主重視、中小企業・消費者・労働者軽視のアベノミクスの実態が現れている。
第二次安倍内閣
第二次安倍内閣発足から五年が経った。デフレ脱却も道半ば、消費者物価指数は0.9%上昇も、当初の2%目標には程遠い。「異次元の金融緩和」も実体経済に対する無力を露呈した。むしろ日銀がばら撒いた資金は民間投資に向かわず、投機筋に流れ、株価を吊り上げている。ようやく消費も上向いてきたものの、19年10月に予定される消費増税は景気回復基調に水を差すだろう。安倍内閣の内部に巣食う新自由主義勢力が均衡財政、規制改革を推進して積極財政を阻み、地方への資金還流を押し止めている。消費増税によって生まれた財源を人作り革命でばら撒くなら、消費増税そのものを中止して政府が民間の消費と投資を牽引すべきである。安倍内閣の経済政策は手段が目的を裏切っている。
第十二回『保建大記』を読む会のお知らせ
『保建大記』は、崎門の栗山潜鋒(一六七一~一七〇六)が元禄二年(一六八九年)に著した書であり、『打聞』は、同じく崎門の谷秦山が『保建大記』を注釈した講義の筆録です。崎門学では、この『保建大記』を北畠親房の『神皇正統記』と並ぶ必読文献に位置づけております。そこでこの度弊会では本書(『保建大記』)の読書会を開催致します。詳細は次の通りです。
○日時 平成三十年一月七日(日曜日)午後二時開始
○場所 弊会事務所(〒二七九の〇〇〇一千葉県浦安市当代島一の三の二九アイエムビル五階)
○連絡先 〇九〇(一八四七)一六二七
○使用するテキスト 『保建大記打聞編注』(杉崎仁編注、平成二一年、勉誠出版)
奉祝天長節、日本独立党創立一周年。
本日天長節の佳節にあたり、謹んで聖上陛下の御長寿と皇室の弥栄をお祈り申し上げます。また昨年の同日に我が党を創立してから丁度一年が経ちました。その間、ネットを中心に多くの方からご支援とご指導を賜りました事を衷心より感謝御礼申し上げます。今後とも、我が日本独立党を宜しくお願い申し上げます。
我が国が真の独立
我が国が真の独立、完全なる主権を回復する為には、日米安保を終了し、核抑止力を担保とした、非同盟・中立外交による「栄光ある孤立」政策を国是に据えるべきだ。
周知の様に、我が国は、52年のサンフランシスコ講和発効によって表向きの独立を回復したが、それ以降も、日米安保によって米軍の駐留が継続し、半主権国の状態が続いてきた。日米安保の運用は日米地位協定によるものとされており、日米地位協定は、在日米軍の区域や施設に関する規定は、日米合同委員会で決定されることになっている。しかし、この日米合同委員会は、議事録や合意文書が原則非公開であり、同委員会で決定した日米合意は国会での承認を必要としないため、軍事的対米従属の根拠を成す数多くの密約が結ばれる装置と化して来た。なかでもその最たるものは、裁判権密約、基地権密約、指揮権密約の三大密約である。裁判権密約とは、米軍関係者が日本の法律で裁かれない、いわゆる治外法権を認めたものであり、基地権密約とは、米軍が日本の国土全体を自由に使用することを認めたものであり、そして指揮権密約とは、戦争になっなら自衛隊は米軍の指揮の下で戦うというものである。何れもアメリカにおける外交文書の公開で明らかになった。現行の日米安保や地位協定では、両国の関係が対等なものとされ、例えば基地についても、我が国の同意が必要であると書かれているが、その裏では日米間の密約によってこれらの同意権が留保され、実質的には独立前と同じ米軍による占領体制が継続している。これらの密約は、選挙による政権交代が実現しても官僚機構そのものが変わらない限り、主権者の意思を超越して永続する。それは民主党による政権交代が証明した。
日露交渉を阻みしもの
我が国日本の対外的独立性を担保するのは確固たる軍事的基盤であり、その唯一の方策は自主核武装をおいて他にないが、そう主張すると直ぐに返ってくる反論は、我が国の核武装は国際的孤立化を招き、戦前の二の舞になるというものである。確かに戦前の我が国は、満州権益でアメリカと衝突し、石油を求めて南進した結果、アメリカに石油を止められた為に、乾坤一擲、大東亜戦争への突入を余儀なくされた。その意味で、我が国が核武装を志向すれば、アメリカは経済制裁と称して我が国へのウラン燃料の輸出を停止し原発の運転を不可能ならしめるだけでなく、サウジアラビアやUAEといった親米産油国に働きかけて、石油の対日輸出をも制限して政策変更を迫るであろう。
言うまでもなく、我が国は石油や天然ガス、石炭といったエネルギー資源のほぼ100パーセントを海外から輸入しており、その内石油については9割近くを中東に依存している。更に中東からの石油輸入の6割以上はサウジアラビアやUAEといった親米国に依存している。したがって、アメリカがこれらの国に日本への輸出制限を要請すれば応じかねず、その場合我が国は瞬時にして行き詰まることになる。こうした事態を回避する為には、平時から原発への依存を減らし、石油や天然ガス、石炭などのエネルギー資源の供給源を多角化してリスクを分散しておく必要があるのは言うまでもない。
そこで新たなエネルギー供給国として注目されるのがロシアであるが、周知の通り、我が国とロシアの間には北方領土問題が横たわり、平和条約締結の障碍となって来た。去年十二月のプーチン訪日では、北方領土問題の歴史的進展が期待されたが、結局何の成果もなく、かえって北方四島における「共同経済活動」という、我が国がロシアの実効支配を追認するかの様な屈辱的合意がなされてしまった。何故、北方領土問題は進展せず、平和条約は締結されないのか。プーチンは北方領土を返す気がないのか。その真意は分からないが、少なくとも返したくても返せない客観的要因が存する事は確かだ。それは、ロシアが我が国に北方領土を返還した場合、アメリカが北方領土に米軍基地を置く可能性を排除できないという問題である。
日米安保条約第六条は、在日米軍の「施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。」とあり、それを定めた日米地位協定第二条では、「個個の施設及び区域に関する協定は、第二十五条に定める合同委員会を通じて両政府が締結しなければならない。」、「日本国政府及び合衆国政府は、いずれか一方の要請があるときは、前記の取極を再検討しなければならず、また、前記の施設及び区域を日本国に返還すべきこと又は新たに施設及び区域を提供することを合意することができる。 」とあるが、この規定の解釈について、外務省が作成した機密文書『日米地位協定の考え方』は
「このことは、次の二つのことを意味している。第一に、米側は、わが国の施政下にある領域内であればどこにでも施設・区域の提供を求める権利が認められていることである。第二に、施設・区域の提供は、一件ごとにわが国の同意によることとされており、従って、わが国は施設・区域の提供に関する米側の個々の要求のすべてに応ずる義務を有してはいないことである。地位協定が個々の施設・区域の提供をわが国の個別の同意によらしめていることは、安保条約第六条の施設・区域の提供目的に合致した米側の提供要求をわが国が合理的な理由なしに拒否しうることを意味するものではない。特定の施設・区域の要否は、本来は、安保条約の目的、その時の国際情勢及び当該施設・区域の機能を綜合して判断されるべきものであろうが、かかる判断を個々の施設・区域について行なうことは実際問題として困難である。むしろ、安保条約は、かかる判断については、日米間に基本的な意見の一致があることを前提として成り立っていると理解すべきである。」とあり、日米安保の実際的運用面においては、在日米軍の展開に関する我が国の同意権を実質的に放棄することが記されているのである。
プーチン訪日に先立ち、谷内正太郎・国家安全保障局長は、モスクワ入りしてロシアのパトルシェフ安全保障会議書記と会談した。その際、パトルシェフ氏が日ソ共同宣言を履行して2島を引き渡した場合、「島に米軍基地は置かれるのか」と問いかけてきたのに対して、谷内氏は「可能性はある」と答えたという。これではロシアが懸念を持つのも仕方がない。プーチンは訪日直前のインタビューで「日本が(米国との)同盟で負う義務の枠内で、露日の合意がどれぐらい実現できるのか見極めなければならない。日本はどの程度、独自に物事を決められるのか。」と発言して我が国の主権の独立性に疑義を呈し、さらに首脳会談後の共同記者会見では、いわゆる「ダレスの恫喝」を引き合いに出し、「1956(昭和31)年に、ソ連と日本はこの問題の解決に向けて歩み寄っていき、「56年宣言」(日ソ共同宣言)を調印し、批准しました。 この歴史的事実は皆さん知っていることですが、このとき、この地域に関心を持つ米国の当時のダレス国務長官が日本を脅迫したわけです。もし日本が米国の利益を損なうようなことをすれば、沖縄は完全に米国の一部となるという趣旨のことを言ったわけです。」と述べ、日米安保に基づくアメリカの宗主的影響力が、日露平和条約交渉の障碍になっていることを明確に示唆しているのである。
我が国の世論は、親露派のトランプがアメリカの大統領になった事で、日露交渉の障碍がなくなったと淡い期待を抱く意見もあったが、問題の本質は誰が大統領になるかということではなく、日米安保・地位協定によって我が国の主権が完全に独立しておらず、ロシアが我が国を対等な交渉相手と見做していないことに存するのである。したがってロシアとの外交的手詰まりを打開する前提としては、我が国が北方領土に対する日米安保の適用除外をアメリカから取付ける必要がある。その上で、北方領土の非武装地帯化をロシアに提案してはどうか。何れにしても、安倍首相の対米追従外交を是正しない限りロシアとの平和条約など夢のまた夢であろう。